大問題!「1年単位の変形労働時間制」

【7】憲法が保障する労働基本権も逸脱する

「1年単位の変形労働時間制」導入は、労働基準法が定めた当初の基本的な労働時間の考え方である「8時間労働の原則」を壊すという点で、労働者にとって重大な不利益をもたらす制度だと言えます。それゆえに、労働基準法は、その導入にあたって各企業での労使協定の締結を厳格に求めているのです。

 

しかし、給特法「改正」法案は、条例さえ制定すれば、労使協定(※1)を結ばなくても公立学校に導入できるとしています。これは労働者保護の観点に立つべき労働法の理念に背き、憲法の労働基本権(※2)さえ逸脱する重大な問題をはらんでいます。

 

また、地方公務員法や労働基準法そのものを「改正」するのでなく、「読み替え」によって教員に「1年単位の変形労働時間制」を適用させようとするやり方は、労働基準法に厳格に決められている内容をなし崩しにしていくものです。

 

 

 

すべての労働者に波及しかねない大問題

このような事が許されるのなら、今後、民間企業などすべての職場でも、労働者の同意なしに不利な内容を使用者の都合で決められる制度に道をひらくことになりかねません。昨年来、政府は経済界の意向を踏まえて、高度プロフェッショナル制度(※3)など、労働者の権利を剥ぎ取る政策を進めています。この流れで今回の学校現場への「1年単位の変形労働時間制」導入を考えると、制定当初に労働基準法が規定していた「8時間労働」という概念をなし崩しにしようとする流れの一つと見ることもできます。つまり、教職員への「1年単位の変形労働時間制」導入は、すべての労働者に波及しかねない大問題ということです。


※1労使協定

 

労使協定とは、使用者と労働者代表(労働者の過半数で組織する労働組合があるときはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がないときは労働者の過半数を代表する者)との書面による協定です。締結された労使協定は、その全部を掲示または備え付け、書面を交付等の方法で労働者に周知する必要があります。また、労使協定を締結することで、労働基準法、育児介護休業法、高年齢者雇用安定法等の定めにある義務が免除されます。また、労使協定締結とあわせて労働協約・就業規則等の変更も必要となります。

※2労働基本権

 

労働基本権とは、労働者に対して憲法上認められている基本的権利で、第27条で「勤労の権利」、第28条で「勤労者の団結する権利及び団体交渉その他の団体行動をする権利(労働三権)」が認められています。ただし、公務員に関しては、1948年にGHQ最高司令官マッカーサーの指令で発布した政令201号、及びそれに基づいて成立した改正国家公務員法で争議権の禁止、団体交渉権の一部制限などが定められ、同様の内容を含む地方公務員法も定められました。しかし地方公務員法第55条では、「職員団体と地方公共団体の当局との交渉は、団体協約を締結する権利を含まない」とされていますが、「職員団体は、法令、条例、地方公共団体の規則及び地方公共団体の機関の定める規程にてい触しない限りにおいて、当該地方公共団体の当局と書面による協定を結ぶことができる」とあります。今回の「改正」は、この規定で認められた権利を奪うものという面もあります。

※3高度プロフェッショナル制度

 

高度な専門知識を有し、職務の範囲が明確で、一定水準以上の年収を得る労働者を対象として、労働基準法に定める労働時間規制(労働時間、休憩、休日及び深夜の割増賃金に関する規定)の対象から除外する仕組み。ただし、労使委員会の決議及び労働者本人の同意を前提としています。2019年(平成31年)4月成立。


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