1993年の労働基準法の改正により成立した制度で、業務の繁閑に応じて週40時間又は一日8時間を超えて労働させることを認めるものです(第32条の4)。観光業など季節ごとに「繁忙期」と「閑散期」の差が大きい事業場での採用を想定しており、「総労働時間の短縮」が目的とされています。この制度の導入のためには、次のような厳しい条件が定められています。
【1】具体的な内容について労使協定を締結し、労働基準監督署に届け出ること
*労使協定には、次のことを定めなくてはいけません。
・対象労働者の範囲
・対象期間とその最初の日
・特に繁忙な時期(特定期間)
・対象期間の労働日と労働日ごとの労働時間
・労使協定の有効期間
【2】対象期間や労働時間などについて、下記の限度を遵守すること
*労働日数は1年280日まで
*連続して労働させる日数は通常6日まで、繁忙期でも連続して12日まで
*労働時間は1日につき10時間まで、1週間につき52時間まで
*労働時間が48時間を超える週が連続する場合は3週以下
*年間で平均した1週当たりの労働時間が40時間を超えない
【3】労使協定であらかじめ定められた対象期間の労働日と労働時間は途中で変更できない。定めた時間を超えた場合は割増賃金が発生する(第32条の4の2)
【4】育児、介護など特別な配慮を要する者については、配慮が必要
※労使協定
事業場において過半数の労働者を組織する労働組合がある場合にはその労働組合、そのような労働組合がない場合は過半数の労働者を代表する者と労働条件について書面で締結したもの。
以上のような条件を課すことで、会社・労働者のどちらかが一方的に不利な状態にならないようにしてあるといわれますが、やはり、会社側・労働者にそれぞれメリット・デメリットがあります。企業側のメリットとしては、年間を通して業務の繁閑に合わせた労働時間の設定をすることで、割増賃金(残業手当)を削減することができます。これは逆に労働者側から見ると、この制度の導入前にはもらえていた割増賃金(残業手当)がもらえなくなるわけなので、収入減となります。ただ、もともと残業代がない教員には関係ないとも言えます。
また、企業側のデメリットとして、労働時間を途中で変更できない、休日を振替できない、中止できないなどがあります。これを労働者側から見ると、事前に休みやすい時期が予測できるので、それにあわせて個人的な計画をたてることができます。しかし、もともと年休が取りやすければ、この制度を導入しなくても現行の勤務形態で個人的な計画を立てることが可能とも言えます。
該当企業の労働者は、「繁忙期」でも労働時間10時間という上限があるので、忙しい時期でも過度な疲労を心身にため込まないこともできます。しかし、学校現場ではそもそも労働時間の管理がまだまだ不十分と言える中で、この制度を導入したからといって労働時間の上限が守られるのかが極めて不安です。
「1年単位の変形労働時間制」を採用している企業数の割合は現在35%程度で、企業規模が小さい企業の割合が多いとの統計があります。