【全教声明】中教審・質の高い教師の確保特別部会の「審議のまとめ」では長時間労働は解消しない

5月14日、全教中執は声明『中教審・質の高い教師の確保特別部会の「審議のまとめ」では長時間労働は解消しない』を発表しました。 

2024年5月14日

 

【声明】中教審・質の高い教師の確保特別部会の「審議のまとめ」では長時間労働は解消しない

 

全日本教職員組合中央執行委員会

 

 5月13日、中央教育審議会・第13回「質の高い教師の確保特別部会」が開催され、「審議のまとめ」(以下、「まとめ」)を発表しました。

 全国の学校現場から「このままでは学校がもたない」という深刻な危機感が訴えられ、長時間過密労働と教職員未配置の解消のための施策を提言することが中教審の中心課題でした。しかし、「まとめ」が述べる施策は昨年、中教審への諮問に先立って自民党特命委員会が提言した内容を踏襲するものにとどまり、教育予算の大幅増額を必要とする施策も求めていません。これでは、長時間労働と教職員未配置は解消しません。「まとめ」は全国の教職員、教育関係者の願いに応えていません。

 全教は怒りとともに学校現場の長時間過密労働解消のための教職員の増員、教育予算増、時間外勤務に対する手当支給を可能とする給特法改正を実現するためにたたかう決意を表明します。

 

 長時間労働解消のためには業務に見合った教職員の増員と業務量の削減が必要です。そのためには義務標準法の「乗ずる数」を改善し、基礎定数増につながる法改正と持ち授業時数の軽減が必要です。しかし「まとめ」は、教職員を増やすことについて、「乗ずる数を制定した当時の勤務時間の半分は授業時数、残り半分は準備を含めた校務に充てるという割合は、現在においてもおおむね同水準」と述べるとともに、「基礎定数を増やしても持ち授業時数の減少のためには用いられない可能性がある」として、加配定数増にとどめました。安定した学校運営と教職員の任用につながる基礎定数増を先送りしたことと、持ち授業時数の軽減に直結する標準授業時数の見直しを今後の検討課題としたことは、学校現場の切実な願いを裏切るものです。

 

 長時間労働に歯止めをかけるためには、時間外勤務に対する手当を支給できるように給特法を抜本的に改正することが必要です。なぜなら、教員には原則として時間外勤務を命じることなく、時間外勤務および休日勤務に対する手当を支給しない代わりに勤務時間の内外を包括的に評価して教職調整額を支給する給特法のしくみが、教員に無定量な時間外勤務を強いる大きな要因となってきたからです。原則として時間外勤務を命じないのだから、実際に生じている時間外勤務は教職員個人の自発的な勤務であるという理屈が給特法制定来50年以上にわたって唱えられてきました。ところが、「まとめ」は、「教職調整額支給の仕組みは、現在においても合理性を有している」と述べて、給特法の本質的構造を一切変えることなく温存することを宣言しています。これでは将来にわたって長時間労働に歯止めをかけることはできません。「まとめ」は現在4%の教職調整額の率を「10%以上にすることが必要である」と述べますが、教職調整額の増額は、いっそうの長時間労働を強いることになりかねません。そして、勤務の特殊性を理由に勤務時間管理をおこなわないという論立ては、労働法制上、到底許されないと同時に、政府・財界がねらう労働基準法制を見直し、労働時間規制の緩和につながる危険性を持っており、全労働者にかかわる重大な問題です。

 

 学級担任手当の新設と、教諭と主幹教諭の間に「新たな職」を設け、その職のための新たな給料表を設けることは、処遇改善の名のもとに、人件費の総額を増やすことなく、「教師の能力と業績を適正に評価し、その評価結果を昇任、昇給、勤勉手当等の人事管理に活用する」ことにほかなりません。若手教師のサポートは「新たな職」の教員のみがすることではありません。学校現場では、学級担任と協力しながらすべての教職員が子どもたちに向き合っています。学級担任手当や「新たな職」は教職員の共同を破壊します。

 

 「まとめ」の問題点はさらにあります。

 まず、「我が国の未来を左右しかねない危機的状況」という認識を示しながら、その要因の分析がまったく不十分なことです。「審議のまとめ」は危機的状況の要因を「子供たちが抱える様々な課題が複雑化・困難化」「保護者や地域からの学校や教師に対する期待が高いこと」と決めつけ、この間2

の教育予算を増やさず、競争主義的な教育政策を押しつけてきた教育行政の責任をまったく無視しています。また、「学校における働き方改革」が打ち出してきた業務の適正化、部活動の地域移行などが必ずしもすすんでいない現状の分析が不十分です。

 さらに、公立学校の教員の勤務には特殊性があるので勤務時間管理が困難と述べる一方で、PDCAサイクルで在校等時間の厳格な把握を求めていることです。この矛盾を押しつけられる教育委員会、管理職、そして現場の教職員は大いに苦しむことになります。また、国立大学附属学校や私立学校の教員と公立学校の教員の勤務の特殊性が異なるという主張にはまったく説得力がありません。

そして、教員の職務を高度専門職と位置づけ、「教師自身の自発性・創造性に委ねる」「自主的・自律的な判断に基づく業務」としている一方で、校長・副校長・主幹教諭・主任教諭・教諭・講師と階層化をすすめ上意下達の体制づくりをすすめようとしていることです。上意下達の構造が強化されるもとで、教職員は子どもたちに向き合うことよりも、「上司」の命令や意向をうかがうことに注意が向かうようになってしまいます。子どもたちの現実から必要な学びを保障する専門職としての教育活動ができないことの最大の被害者は子どもたちです。

 

 このような問題を抱える「まとめ」では、教職員の長時間過密労働は解消できず、教職員未配置は解消できません。教職を希望する学生も増えないでしょう。中教審の責任は重大です。全教は当面、「まとめ」を批判するパブリックコメントを集中することをよびかけるとともに、街頭宣伝活動などを通じて、「まとめ」の問題点と限界を広く明らかにします。教職員定数の抜本的改善・教育予算増・給特法を時間外勤務手当が支給できるように改正することを一体的にすすめ、「このままでは学校がもたない」危機的状況を改善する道を切り拓く決意を表明します。