全教は4月24日、書記長談話「これでは長時間過密労働は解消できない!中教審特別部会審議のまとめ(素案)の問題点」を発表しました。
2024年4月24日
【談話】これでは長時間過密労働は解消できない!
-中教審特別部会「審議のまとめ(素案)」の問題点-
全日本教職員組合(全教)
書記長 檀原毅也
4月19日、中教審「質の高い教師の確保特別部会」で「『令和の日本型学校教育』を担う質の高い教師の確保のための環境整備に関する総合的な方策について(審議のまとめ)(素案)」(以下、「素案」)が示されました。
「素案」は「教師を取り巻く環境は我が国の未来を左右しかねない危機的状況にある」としながら、子どもたちの抱える課題の「複雑化・困難化」や「保護者や地域からの学校や教師に対する期待が高いことから、学校や教師の負担が増大してきた実態」をあげるのみで、その要因の解明はきわめて不十分です。学校が抱える困難の主たる要因は、10数年間にわたって定数改善計画をつくらなかったこと、正規採用を抑え臨時・非常勤教職員を増やしてきたこと、全国学力・学習状況調査の悉皆実施などの競争主義的な教育政策と、教員に無定量な労働を強いる給特法のありかたにあります。「素案」に示された施策では、教員不足や教職員の長時間労働の実態を改善できず、「このままでは学校がもたない」「学校が大ピンチ」という現状をいっそう深刻化させるおそれがあります。
特別部会では、持ち授業時数を少なくすることや、基礎定数を定めている標準法の「乗ずる数」の改善も議論されました。しかし、「素案」は、持ち授業時数の上限を設けることに背を向け、「増加した教員定数が持ち授業時数の減少のために用いられない可能性がある」として標準法の改善による基礎定数増を否定しています。長時間労働の解消には、加配定数増にとどめることなく、正規採用増に直結する基礎定数増こそ必要です。
「素案」は「処遇の改善」について「学校内外との連携・調整機能を充実させるための『新たな職』の設置」、学級担任についての手当額の増額など、いわゆる「メリハリある賃金体系」の導入と職場の階層化を打ち出しています。いずれも教職員の負担軽減ではなく、現状の負担を容認するばかりか、いっそうの負担増につながるとともに、教育活動に欠かせない教職員の共同の破壊につながるおそれがあります。学級担任手当の創設も、教職員に分断を持ち込む危険性があります。また、学級担任手当の原資を現在一律支給されている義務教育等教員特別手当の支給方法の見直しに求めていることも重大です。すべての教職員が子どもたちに向き合っている現実こそ重視されなければなりません。
長時間過密労働の解消の焦点のひとつは、給特法を改正し、法的に長時間労働に歯止めをかけることです。全教はじめ教育研究者有志など幅広い人々が「時間外勤務に対して手当を支払うしくみを設けることが長時間労働に歯止めをかける」と声をあげてきました。使用者にとってのペナルティである時間外勤務手当を支給させるしくみを整えることで、長時間労働縮減の総合的・具体的な施策としての、教職員増、持ち授業数の上限設定、少人数学級推進、教育予算増などをすすめることができるからです。特別部会でも同趣旨の意見は述べられました。
ところが「素案」は「勤務時間の内外を包括的に評価し、その処遇として、教職調整額を本給相当として支給するという従来の仕組みは、現在においてもなお合理性を有している」「時間外勤務命令を前提とした勤務時間管理を行うことは適当ではない」と述べて、時間外手当支給のしくみを設けることを否定し、教職調整額の率を「少なくとも10%以上とすることが必要」としています。そもそも、教職調整額の増額には長時間労働抑制の効果はなく、むしろ、現在の長時間労働の容認にとどまらず、いっそう深刻化させるおそれがあります。勤務時間管理が困難だから時間外勤務手当を支払わないという理屈は、無定量な勤務を強いる給特法の問題をそのまま放置するものです。現在、政府や財界がすすめようとしている労働時間の規制緩和などの労働基準法制見直しに通じるという点でも重大な危険性をもっています。
一方で「素案」はPDCAサイクルにより「時間外在校等時間が月80時間超の教師をゼロにする」「将来的には、教師の平均の時間外在校等時間が月20時間程度に」と、在校等時間の計測を厳格に求めています。そうであれば、時間外勤務の把握は可能なはずです。「在校等時間」全体および「持ち帰り仕事」を労働時間であると規定し、使用者による労働時間管理の責任を明確にすることは決して不可能ではありません。教職調整額は「勤務時間の内外を包括的に評価したもの」ではなく教員の職務の専門性、特殊性に対応する職務給であり、本給の一部と位置づけるべきです。
「素案」は、時間外勤務に対する手当の支給は諸外国でも一般的ではないと述べています。しかし労働協約によって勤務時間を定めている例があることこそ注目すべきです。
また、50数年ぶりに教職員の労働条件に関する大きな変更がなされようとしているにもかかわらず、そ
の検討に現場の教職員、教職員組合が議論に参加できないことの不当さが浮き彫りになっています。「素案」に対して、これでは長時間過密労働は解消されないと、多くの人々が批判の声をあげています。全教は、引き続き、長時間過密労働解消と教職員未配置の解消のために、教育予算増、教職員の大幅増員、時間外勤務に対して手当を払うしくみを設ける給特法改正を求めて、幅広い共同のとりくみをすすめる決意です。
以上
コメントをお書きください