「帰還兵はなぜ自殺するのか」(デイヴィッド・フィンケル 亜紀書房)を読んだ。ざっと読み通すだけでもずいぶん時間がかかった。何度も投げ出したくなった。▼5人のイラク派遣米兵とその家族へのインタビューが中心だが、5人のうち1人は戦死、4人がPTSD(心的外傷後ストレス症候群)やTBI(外傷性脳損傷)になった。原因は極度の緊張、人を殺したり戦友を死なせた罪悪感、そして、爆風による脳へのダメージ。その結果、悪夢、感情爆発、人格変化、家庭内暴力、そして自殺願望。症状はさまざまだが、「見えない傷」が彼らを蝕み、やがては家族をも壊してしまう。アフガニスタンとイラクに派兵された200万人のうち、50万人がPTSDやTBIに苦しみ、年間240人以上が自殺しているという。▼安部首相を始め、「憲法違反」の声に耳を貸さず、「安保法制」を強引に押し進めようとする人たちは、これらの現実を知らないのか。それとも知らぬふりを決め込んでいるのか。いずれにしても、人の命に関わることへの誠実な姿勢とはほど遠い。国会の会期を大幅に延長し、「丁寧に」説明するというが、いくら説明しても、それで「黒」が「白」にはなるまい。▼法案が提出された頃、国会論戦を「消化試合」と言った評論家がいたが、今や内閣支持率は40%を切った。来年の参院選に影響が出るとなれば、腰が引ける議員も出てくる。大切なのは私たち1人1人の声であり世論だ。「戦争法案」を断じて許してはならない。